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ラボ訪問 石川 聡子 教授

理科の授業を"理科の勉強"だけで終わらせない

理数情報教育系(理科教育部門)
石川 聡子 教授

たくさんの本が並ぶ自身の研究室の本棚をバックに撮影に応じる石川先生

Q.現在取り組んでいる研究は?

A.理科教育の立場から特に科学技術に関する職業教育に関心を持っています。
 
OECD(経済協力開発機構)が進めるPISA(国際的な学習到達度に関する調査)において、日本の子どもは「なぜ理科を学ぶのか」「理科で学んだことが将来何に役立つのか」といった動機付けに関するアンケート結果でOECDの平均値を下回っています。学校で学ぶことと自分の将来の職業を結びつけることがうまくできていないともいえる結果です。
 一方、職業教育がうまくいっている国では、こういう職業に就くにはこの資格が必要で、この資格を取得するには理科のこの知識が必要、といった対応関係があるのです。将来自分がどんな職業に就きたいか、そのために理科をこんな風に学びたい、日本の子どもが理科教育にそんなふうに向き合えるといいなあと考えています。もちろん、理科は仕事のために学ぶだけではなく、社会の中での科学技術のあり方を市民としてよく考えられるようになるためにも大切な教科です。残念ながら、コロナ禍で研究はなかなか思うようにはかどっていないのが現状ですが…。
 それから、理系の職業選択とジェンダーの関係にも興味を持っています。“教育環境や生活環境が職業選択に与える影響”について少し考えてみましょう。例えば、男女雇用機会均等法などの法律が制定されて、社会制度的には女性の社会進出が後押しされましたが、幼少期にロールモデルとして見る絵本の登場人物の女性たちは、お花屋さんとか保育士さんとか、まだまだステレオタイプではなかったですか?女性の社会進出は描かれるようになっても、一部の医療系を除く理科系の職業はほぼ描かれていないのです。“リケジョ”という言葉がありますが、幼少期をそういう環境で過ごして、中学生や高校生になったとたんに「理科が好きな女子は理科系の分野に進学?就職しましょう」って急に言われても…、私たち女子は小さい頃からそんな風には育てられてきてませんよって感じですね。
 このように、私たち多くが抱いている社会通念やイメージを漠然としたままにしておくのではなく、研究として証拠集めをしたいと思っています。

ゼミ生の質問に答える石川先生

今後挑戦してみたいことは?

A.「理科で学ぶことは自分の職業選択やキャリア形成に役に立つんだ」と、特に高校を卒業して社会に出る若者が具体的な実感と自信を持って、生き生きと仕事ができるような、そんな理科教育のあり方を研究したいと思っています。理科教育というよりむしろ近年国内外で注目されているSTEAM教育が適しているかもしれません。

学生時代の印象的な思い出は?

A.教育実習です。それも悔しい気持ちの方で。
 小学校の国語の授業で、私が発問したことに対して、子どもたちから言ってほしい言葉を引き出せなかったことがありました。私の発問が悪かったのですね。学内で教育実習の仕事をしているのですが、今も学生に、「30年以上も前の出来事だけど、そのときのもどかしい思いを鮮明に覚えているくらい、教育実習はインパクトがある」という話をすることがあります。

先生は小さい頃どんな子どもでしたか?

A.マンウォッチングが好きなワイルドな子ども

高校生までは山口県の田舎に住んでいて、小学生の頃は学校から帰ってきたらすぐに遊びに出かけていました。イチジクの木に登ってカミキリムシを捕まえたり、田んぼに入って足をヒルに嚙まれたり…。一方で、母が理科の教師だったこともあって、虫眼鏡とピンセットを片手にいろんな植物の説明をしてくれましたが、「ふ~ん」って聞き流しちゃうような子どもでした。植物を見るより人を見て「あの人なんであんな恰好をしているんだろう?」と考えるのが好きだったのです。

大教大に来たきっかけは?